遺産分割前の預貯金の仮分割とは?その要件・手続きは?後の遺産分割でどう扱われるのか?
近時、家事事件手続法について改正があり、「遺産分割前の預貯金の仮分割の仮処分」という制度がもうけられました。
用語としても難しくよくわからないという方も多いのではないでしょうか?
ここでは、この耳慣れない「遺産分割前の預貯金の仮分割の仮処分」についてご説明します。
条文
まずは下記の条文をご紹介してから説明していきたいと思います。
(家事審判手続法第200条第3項抜粋)
家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権の当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。
用語の確認
「預貯金債権」とは銀行にお金を預けている人が銀行などの金融機関に対して払い戻しの請求をする権利です。
つまり、銀行など金融機関で口座を所有しておりお金を預けている人はすべて預貯金債権者となります。
上記の条文の前提となっている問題点ですが、被相続人が死亡すると銀行などの金融機関に預けているお金は相続人が承継することになります。
ですから、被相続人が死亡した時に相続人が銀行などの金融機関に対して預貯金債権を承継することになるわけです。
ところが、金融機関は相続人の1人が口座名義人であった被相続人の真の相続人であることを証明したとしても相続人全員からの請求でなければこれに応じてはもらえません。
ただ、これでは被相続人の死亡後、当面必要となる葬儀費用や生活費などのお金が引き出せないことがあるという問題がありました。
相続人全員の仲がよく、特に相続について争いもないケースにおいては全員から払い戻し請求することは大変ではありませんが、争いがあるようなケースでは極めて困難といえます。
この点、令和元年7月1日施行の改正民法では、相続人1人が引き出せる限度額を定め、1人から請求することを可能にしました。
限度額とは、各金融機関の総額に法定相続分を掛けて計算した額になりますが、その額が150万円を超える場合には150万円が限度額となります。
事例
例えば、相続人が妻と子供2人であるケースで下記の預貯金があるとします。
A銀行 1200万円
B銀行 500万円
C銀行 200万円
子供のうちの1人が引き出せる金額は、相続分が4分の1ですから、
A銀行 300万円
B銀行 125万円
C銀行 50万円
ただし、A銀行は民法の規定の150万円を超えていますから150万円が限度額となります。
つまり、子供1人で325万円までを引き出すことができるようになりました。
遺産分割前の預貯金の仮分割の仮処分
ここで本題の上記条文の内容に触れていきます。
上述した民法の規定による1人からの預貯金の払い戻しは家庭裁判所の手続きを要せずにできますが、遺産分割が家庭裁判所の手続きで行われている場合には申し立てがある場合には家庭裁判所の決定で払い戻しをすることができる制度です。
遺産分割などの相続に関する争いはいきなり訴訟にはならず、まずは家庭裁判所の調停委員に間に入ってもらって話し合いを行い、お互いが納得できたところで調停調書が作成されて、その内容に従って相続手続きをするというものです。
調停では折り合いがつかない場合には審判に移行します。
その調停や審判を申し立てている遺産分割について、当面お金を必要とする理由を説明した上で家庭裁判所がその払い戻しを必要と認めた場合には、その申立人からの払い戻しができるように決定をします。
上記の条文にもあるように「預貯金債権の全部又は一部」ですから、家庭裁判所が必要と認めた場合には全額を引き出せる可能性もあるということになります。
上記の条文の最後に「他の共同相続人の利益を害するときは、この限りではない」とありますが、どうしても当面必要となるお金の払い戻しを特別に認められる場合の規定である以上、他の相続人の利益が害されるのであれば認められないのは当然のことだと思います。
その後遺産分割の調停・審判の中で、払い戻された預貯金の財産は相続財とは別として扱われるのではなく、その預貯金も含めた財産で遺産分割がなされるものと考えられます。
まとめ
今回は、遺産分割前の預貯金の仮分割の仮処分について解説しました。
遺産分割前に相続人の1人からの請求による預貯金の払い戻しは、上記で説明した民法の規定に基づく手続き又は今回のテーマである家事審判手続法の預貯金の仮分割の仮処分のどちらかを利用することができます。
預貯金の仮分割の仮処分は、家庭裁判所での調停・審判の申し立てをしている場合に利用できる制度ですので、申し立てをされる場合には弁護士に相談しましょう。
最終更新日 2024年7月6日
最終更新日 2024年7月6日