遺産分割の調停や審判に不服申立てできるか?方法は?
「遺産分割の調停や審判に納得できないものの、どうしたらよいのだろうか」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、遺産分割の調停や審判に納得できない場合の不服申立ての方法について解説します。
遺産分割調停と遺産分割審判の違い
遺産分割は、相続人全員の話し合いで行うのが原則です。
これを「遺産分割協議」といいます。
しかし、遺産分割協議をするには、全ての法定相続人が参加した上で、全ての法定相続人が合意しなければなりません。
1人でも反対する法定相続人がいれば遺産分割協議は成立しませんので、その場合は家庭裁判所に遺産分割調停の申立てを行うことになります。
遺産分割調停とは、裁判所を間に入れた話し合いのことです。全ての法定相続人が合意しなければ調停は成立しませんが、裁判官や調停委員という第三者が間に入ることで、身内同士の話し合いではまとまらなかった話であってもしばしばまとまることがあります。
遺産分割調停が成立しなかったときは、遺産分割審判に移行します。遺産分割審判では、最終的に裁判官が審判書を作成し、どの相続人がどの相続財産を取得するかを命令することになります。
遺産分割調停に納得できないとき
最高裁判所は、遺産分割協議のやり直しについて、重要な2つの判決を出しています。
1つ目の判決は、最高裁判所平成元年2月9日判決です。該当部分を引用します。
共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によって右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。けだし、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法909条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである。
この判決からは、例えば、母親の面倒を見ると約束して他のきょうだいよりも多くの遺産をもらった長男が母親の面倒を見なくなったとしても、遺産分割協議を解除することはできないという結論になります(ただし、遺産分割協議の解除ができないというだけであり、他のきょうだいや母が長男に対して母の扶養料を請求することはできます)。
2つ目の判決は、最高裁判所平成2年9月27日判決です。該当部分を引用します。
共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、上告人が主張する遺産分割協議の修正も、右のような共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解される
例えば、母親の面倒を見ると約束して他のきょうだいよりも多くの遺産をもらった長男が母親の面倒を見なくなったとき、長男が解除に反対すれば1つ目の判決の考え方に従って遺産分割協議を解除することはできないものの、長男が解除に反対しなければ2つ目の判決の考え方に従って遺産分割協議を解除できることになります。
ところで、遺産分割調停は、裁判所が間に入った遺産分割協議と言ってもよいのですが、調停調書は遺産分割協議書よりも強力です。
というのは、遺産分割調停が成立すると調停調書を作成することになりますが、調停調書は確定判決と同一の効力を有するものとされているからです(家事事件手続法268条1項)。
そうすると、遺産分割協議の解除が許されないときは、より強力な遺産分割調停でも解除は許されないと考えられます。
ただし、相続人全員が合意すれば、遺産分割調停の調停調書と異なる内容の遺産分割協議を改めて行うことはできます(この場合、後に成立した遺産分割協議のほうが先に成立した調停調書よりも優先されることになります)。
なお、遺産分割調停が成立した後に遺産分割調停に参加していない相続人がいることが判明したときは、全ての相続人が参加していない遺産分割調停は無効となりますので、新たに判明した相続人にも参加してもらって遺産分割調停をやり直さなければなりません。
また、本来相続人でない人が相続人として遺産分割調停に参加していたときは、原則としてその人に分割された財産を再分割すれば足りますが(遺産分割調停は成立したままになります)、全体として公平な分割にならないような特別の事情があれば遺産分割をやり直すことになります。
遺産分割審判に納得できないとき
遺産分割調停が成立しないときは、自動的に遺産分割審判に移行し、裁判官が審判をして遺産分割を決めることになります。
裁判官が審判で決めた遺産分割に不服がある人は、審判の告知を受けた日から2週間以内であれば、高等裁判所に即時抗告することができます(家事事件手続法85条1項、86条1項)。
家庭裁判所における遺産分割審判は1人の裁判官が担当しますが、高等裁判所における抗告審では3人の裁判官が担当します。
この3人の裁判官が家庭裁判所の審判に理由があるかどうかを合議して決定書を作成します。
ここで問題になるのが、家庭裁判所で行った中間合意の効力が抗告審でどうなるか(家庭裁判所では合意に応じたものの、高等裁判所で撤回することが許されるか)ということです。
ここで中間合意とは、相続人全員が争いのない事項とすることに納得し、中間調書に記載された事項のことです。
例えば、遺産の範囲についての合意、遺産の評価額についての合意、遺言や遺産分割協議の効力についての合意、特別受益として持ち戻しを認める合意、特別受益として扱わない旨の合意、寄与分割合を認める合意などが中間合意の典型例になります。
家庭裁判所が中間調書を作成するときは、審判に移行した際も合意内容に基づいて審判する旨の確認を取るのが通常です。
家庭裁判所が中間合意の存在を前提として審判をした以上、抗告審において中間合意を撤回することは許されないものと考えられています。
したがって、家庭裁判所で中間合意をしたときは、抗告審においても、中間合意の存在を前提にして遺産分割方法についての判断がなされることになります。
まとめ
このように、遺産分割審判がなされたときは高等裁判所に対して不服申立てをすることができますが、遺産分割調停や中間合意をしたときには相続人全員の合意がない限り撤回が許されませんので、慎重に行う必要があります。
遺産分割事件についてお困りのときは、当事務所までお気軽にご相談ください。
最終更新日 2024年7月6日
最終更新日 2024年7月6日