差し引きプラスなら相続したい!限定承認とは?どのような場合に活用できるのか?
「相続放棄したいが、プラスの財産もある」
「相続財産の限度で負債を支払うことができないか」
などとお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、そうした場合に行うことができる限定承認とはどのようなもので、限定承認を検討するために知っておきたいことについて解説します。
限定承認とは?
ある人(被相続人)が死亡したとき、相続人には3種類の選択肢があります。
すなわち、①そのまま相続する(単純承認)、②相続放棄する、③相続財産の限度で負債を支払う(限定承認)というものです。
単純承認や相続放棄との違いは?
相続財産には、積極財産(プラスの財産)と消極財産(マイナスの財産)があります。
両者を比較し、積極財産のほうが多ければ単純承認して全てを相続し、消極財産のほうが多ければ相続放棄して初めから相続人にならなかったものとすればよいのですが、どちらが多いのかが分からないことがあります。
そのようなときに限定承認を選択すると、仮に消極財産のほうが多かったとしても相続財産の限度で支払えばよい(相続人自身の固有の財産から弁済しなくてもよい)ことになります(民法922条)。
なお、積極財産のほうが多いと思って単純承認をした後に消極財産のほうが多いことが判明した場合には、単純承認をした相続人は、自分自身の固有の財産から被相続人名義の負債を支払わなければならないことになります。
どのような場合に活用できるのか?
限定承認が活用できる場合は、「先買権」を行使するときです。
限定承認をすると、原則として、全ての積極財産を競売によってお金に換えて、そのお金を消極財産の支払いに充当することになります(民法932条本文)。
しかし、限定承認をした相続人は、家庭裁判所に対し、先買権を行使して特定の遺産を取得するため、鑑定人の選任の申立てをすることができます(民法932条ただし書)。
例えば、限定承認をした相続人の中で、特定の不動産をどうしても欲しいと考える人がいたとします。
原則として競売で換価することになりますが、競売では1円でも高い値段を付けた人が落札することになるため、その不動産を確実に取得することができません。
そこで、民法は先買権という制度を設けました。
すなわち、限定承認をした相続人が特定の遺産の取得を希望するときは、裁判所が選任した鑑定人が付けた鑑定価額以上のお金を支払うことで、確実に特定の遺産を取得できます(これを「先買権」といいます)。
手続き・流れ
限定承認は、全ての相続人が共同して行わなければなりません(民法923条)。
1人でも単純承認する相続人がいると、他の相続人は限定承認をすることができなくなります。
家庭裁判所は、限定承認をした相続人の中から財産管理人を選任することができます(民法936条1項)。
その財産管理人が全ての相続人を代理し、積極財産を競売して消極財産を弁済し、相続財産の清算手続を行うことになります。
相続人は、家庭裁判所に限定承認の申述を行った後、5日以内(財産管理人が選任されたときは10日以内)に、全ての相続債権者や受遺者に対し、限定承認をしたこと、一定の期間内に債権の届出をしなければならないこと、その期間内に届出をしないときは弁済から除外されることを公告しなければなりません。
また、限定承認者が把握している相続債権者や受遺者に対しては、上記事項を個別連絡しなければなりません(民法927条)。
そして、相続債権者や受遺者に弁済するために相続財産を売却する必要があるときは、原則として競売にかけなければなりません(民法932条本文。なお、限定承認した相続人に先買権があることは上述したとおりです)。
清算手続が終了し、相続財産に余りがあるときは、余った相続財産は相続人が取得することになります。
弁護士費用は?
ここまで読んだ限りでは、限定承認はとても良い制度のように思えます。
しかし、限定承認をすると少なく見積もっても100万円以上のお金がかかります。
まず、弁護士費用です。
限定承認は極めて複雑な手続になりますので、普通の人が自分ですることはできず、弁護士に依頼することになります。
限定承認手続を代理する弁護士にとっては、破産の申立代理人と管財人の仕事を1人でするようなものです。
極めて簡単な破産事件であっても、申立代理人の弁護士費用として税込33万円、管財人費用として税込21万円がかかりますので、限定承認手続を代理する弁護士としては、最低でも税込55万円の弁護士費用は必要だと考えることでしょう。
先買権を行使するために鑑定人の選任申立てをするときは、鑑定人の報酬は申立人が支払う必要があります。
いくらになるかは一概には言えませんが(裁判所が決めます)、20~30万円程度を見込んでおくべきです。
その他、官報公告費用(5万円程度)や不動産の共同相続登記や先買権の登記費用等もかかります。
また、限定承認がなされたときは、相続開始時に相続財産の譲渡があったものとみなされ、譲渡所得税が課税されます(所得税法59条)。
なぜなら、単純承認をすると、被相続人の取得価額が引き継がれるため、譲渡所得税(値上がり益課税)はなされませんが、限定承認をすると、税法上は相続開始時に時価で売却したのと同じことになるからです。
まとめ
このように、限定承認をする際には上記のような注意点があるため、実務で選択されることはまずありません。
限定承認についてお困りのときは、当事務所までお気軽にご相談ください。
最終更新日 2024年7月6日
最終更新日 2024年7月6日