相続人が認知症のまま遺産分割できるか?成年後見人とは?選任手続の流れも解説

成年後見制度と成年後見人とは?基礎知識と相続時の役割、制度利用開始までの流れも解説

相続人が認知症のまま遺産分割できるのか?

成年後見人とは?選任手続の流れは?

ここでは、そうした疑問にお答えしたいと思います。

相続人の判断力がなければ遺産分割できない

被相続人が死亡して相続が開始したとき、遺言がのこされていれば遺言に従って遺産分割をすればよいのですが、遺言がのこされていなければ相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。

しかし、相続人の中に判断力がない(正確には、意思能力を欠く常況にある)人がいると、その人は遺産分割協議に参加することができないため、遺産分割協議を成立させることができません

判断力のない人を言いくるめて遺産分割協議書に署名捺印させたとしても、そのような遺産分割協議は無効となり、いつでも全てが覆るリスクを内在することになります。

遺産分割ができないと、相続財産を被相続人名義から相続人名義に変更することができません。

成年後見人とは

成年後見制度と成年後見人とは?基礎知識と相続時の役割、制度利用開始までの流れも解説2そこで、判断力がない人に成年後見人をつけることで、成年後見人が意思能力を欠く常況にある人を代理して遺産分割協議に参加することができるようになります。

成年後見人とは、認知症・知的障害・精神障害などのために意思能力を欠く常況にある人(被後見人)の権利や財産を守るため、裁判所によって被後見人の法定代理人に選任された人のことです。

意思能力とは、事理を弁識する能力(行為の結果を判断することができる精神能力)のことです。

意思能力が完全に欠如した人がある行為をしたとしても、その行為は法的には無効となります(民法3条の2)。

そのため、認知症やその他の事情で意思能力を欠く常況にある人に法律行為をさせるためには、その人を代理して法律行為をする成年後見人を選任する必要があります。

成年後見人の役割

被相続人が死亡して相続が開始したとき、遺言がのこされていれば遺言に従って遺産分割をすればよいのですが、遺言がのこされていなければ相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。

しかし、相続人の中に意思能力を欠く常況にある人がいると、その人は遺産分割協議に参加することができないため、遺産分割協議を成立させることができません(意思能力を欠く常況にある人を言いくるめて遺産分割協議書に署名捺印させたとしても、そのような遺産分割協議は無効となり、いつでも全てが覆るリスクを内在することになります)。

遺産分割ができないと、相続財産を被相続人名義から相続人名義に変更することができず、いつまでも被相続人名義のままになってしまいます。

そこで、意思能力を欠く常況にある人に成年後見人をつけることで、成年後見人が意思能力を欠く常況にある人を代理して遺産分割協議に参加することができるようになります。

もっとも、遺産分割協議の成立には全ての相続人の同意が必要であることから、相続人のうち誰か1人でも反対すれば遺産分割協議は成立しません。

その場合は、遺産分割調停手続での解決を目指すことになります(調停手続とは、裁判所が主宰する話し合いのことです。当事者全員が合意すれば、合意内容を調停調書に記録して遺産分割は終了します)。

そして、調停が成立しなければ審判に移行し、裁判官が審判をして、どの相続財産をどの相続人が相続するかを決めることになります。

成年後見人は、遺産分割調停や審判手続においても被後見人の法定代理人として活動することになります。

選任手続の流れ

成年後見制度と成年後見人とは?基礎知識と相続時の役割、制度利用開始までの流れも解説3意思能力を欠く常況にある人に成年後見人を選任したいときは、家庭裁判所に対し、成年後見人の選任申立てをすることになります。

申立てを受けた家庭裁判所は、主治医等の診断書を参考にして成年後見人を選任する必要があるかどうかを判断し、その必要があると判断すれば成年後見人を選任します。

申立人は、成年後見人の候補者を推薦することができますが、裁判所はその推薦にとらわれることなく、全くの自由な裁量判断で成年後見人を選任します(裁判所には、申立人を含む親族の全員が反対したとしても、反対意見を無視して弁護士を成年後見人に選任する権限がありますし、実際の運用としてもそのようにしています)。

また、選任された成年後見人には善管注意義務(民法844条・644条)が課せられており、被後見人のためにした活動について家庭裁判所に対して報告しなければならないため、被後見人の取得額が法定相続分を下回るような解決策に応じることは期待できません。

例えば、長男夫婦が亡くなった両親の面倒を最期までみたし、見るべき相続財産は長男夫婦が亡くなった両親と同居していた自宅しかないことから長男に全ての相続財産を相続させたい(他の相続人は相続を放棄する)と相続人全員が考えており、被後見人が意思能力を欠いていなければおそらく他の相続人と同様の判断をするであろうと思われたとしても、善管注意義務を負う成年後見人としては、被後見人の法定相続分を下回ることになるような遺産分割協議に応じたり、相続を放棄したりすることはしないでしょう。

つまり、相続人の中に意思能力を欠く常況にある人がいるとき、成年後見人を選任しなければ遺産分割ができずに被相続人名義のままですし、かといって成年後見人を選任すると、選任された成年後見人は申立人その他の相続人の意向に関係なく被相続人の法定相続分を確保することを最優先にした活動をすることになるという、非常に難しい判断をしなければならない状況になってしまいます。

まとめ

このように、成年後見人制度は融通が全く利かないため、成年後見人の選任申立てをするかどうかで迷ったときは、事前に弁護士に相談し、十分な見通しを持ってから行動に出ることをお勧めします。

相続についてお困りのときは、当事務所までお気軽にご相談ください。

「まずは相談だけ受けてみて、依頼するかどうかは家族と話し合って決めたい」ということでも構いません。

ご連絡をお待ちしています。

最終更新日 2024年7月6日

この記事の監修者
弁護士・監修者
弁護士法人ひいらぎ法律事務所
代表 社員 弁護士 増田 浩之
東京大学経済学部卒。姫路で家事事件に注力10年以上。神戸家庭裁判所姫路支部家事調停委員。FP1級。

最終更新日 2024年7月6日

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