遺産分割前に処分された財産も遺産分割できるか?遺産分割できる場合とできない場合
「遺産分割前に処分された財産も遺産分割できるの?」
ここでは、そうした疑問にお答えしたいと思います。
条文が新設された
相続が開始した場合には、遺言があればそれに従い分割されます。
遺言がなければ法定相続分割合で分割するかまたは相続人全員の合意で分割方法を決定することができます。
この合意のことを「遺産分割協議」といいますが、相続人全員の話し合いではまとまらない場合には家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
相続が開始し、遺産分割が成立する前において、相続人のうちの一人が預貯金を引き出して消費している場合についての取り扱いについてこれまでは明文化されていませんでしたが、令和元年7月1日に施行された改正民法で明らかにされました。まずは改正された民法の条文を確認してみましょう。
(第906条の2)
- 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
- 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
具体例
(相続関係)
被相続人 A
相続人 B(妻)
C(長男)
D(長女)
(相続開始の財産)
預貯金 P銀行 3500万円
Q銀行 500万円
(事実関係)
Aが亡くなった後、長男CがQ銀行の口座に存在する預貯金の全額を引き出した。
このケースにおいて原則としては、相続開始時の財産かつ遺産分割時に存在する財産が分割対象になります。
そう考えた場合、3500万円を法定相続分で分けたとすると、
B 1750万円
C 875万円
D 875万円
となります。
もちろん、相続人同士仲が良くBDに異議がなければこれでよいわけですが、本来ならば、以下の相続分を相続することができました。
B 2000万円
C 1000万円
D 1000万円
つまり、Cの行為によりB−250万円、D−125万円について相続する権利が失われてしまったことになります。
改正前は、相続人全員の同意がない場合には遺産分割にこのマイナス分を含めることができず、別途民事訴訟を提起してCから取り返しの請求をせざるを得ず煩雑な手続きが要求されていました。
では、改正民法に基づいてこのケースを当てはめてみます。
Cが使い込んだ500万円を遺産分割時に存在するものとして考えた場合、4000万円を相続財産として考えて相続分割合を出すと、
B 2000万円
C 1000万円
D 1000万円
となります。
そして、Cの相続分からすでに使い込んだ500万円を引くと、
B 2000万円
C 500万円
D 1000万円
となり、BCは本来相続できるはずであった金額を確保できることになります。
そして、これまではこのようにすでに相続人の一部の者が消費した財産は遺産分割時に存在するものとするには相続人全員の同意が必要でした。
しかし、この改正民法第906条の2の第2項において、相続人の一部の者によって財産の処分がされた場合には「当該相続人の同意は要しない」と明記されましたから、上記の例においてはCの同意がなくとも、使い込んだ財産を存在するものとして遺産分割をすることができるということになります。
これまではCが同意しなければ、3500万円で遺産分割し、Cが使い込んだ不足分は相続手続きとは別に不法利得返還請求をしなければならなかったわけです。
不当利得返還請求とは「権利なく財産を取得したのだからかえしなさい」という民事上の請求です。
Cが任意に返還するとは考えずにくいわけですが、その場合には訴訟手続きになり取り戻すのにかなりの時間と労力を要することになっていました。
改正民法により、使い込んだ当事者の同意は不要になったのですから、この部分については比較的スムーズに解決できると考えられるでしょう。
この規定が適用されるのは、令和元年7月1日以降に開始した相続に限られますから、それ以前のものについては、上述した従前の取り扱いになります。
まとめ
今回は、遺産分割成立前の相続人による財産の使い込みについての取り扱いについて民法改正前と改正後について詳しく解説しました。
相続人の一部に財産の使い込みがある場合には、弁護士に相談して遺産分割をすすめるのがよいでしょう。
最終更新日 2024年6月30日
最終更新日 2024年6月30日