相続人不存在の基礎知識と手続を徹底解説

相続人不存在の基礎知識と手続を徹底解説

「自分には誰も法定相続人がいないけど、自分が死んだら自分の財産はどうなるのだろうか」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ここでは相続人不存在の基礎知識と手続について解説します。

相続人不存在のときの相続財産は法人になる

人は死亡によって自己の財産に関する一切の権利義務を失いますが、それらの権利義務は民法が定める一定範囲の親族(法定相続人)に当然に承継されることになります(民法896条)。

しかし、民法は相続人の範囲を一定範囲の親族に限定していることから、人が死亡して遺産がのこっているのに法定相続人が誰もいないという事態が発生することがあります(法定相続人がそもそも存在しないケースと、全ての法定相続人が相続放棄をしたケースがあります)。

このようなときに相続財産の帰属主体が失われたままだと、相続債権者等の利益を害することになります。

そこで、民法は、相続人なくして死亡した者をとりまく法律関係に混乱が生じることがないように、相続人のあることが明らかでないときは相続財産法人が成立するものとし(民法951条)、あわせて相続財産管理制度を設けています。

なお、法定相続人が所在不明のときは、相続財産の管理の問題ではなく不在者の財産の管理の問題となります。

相続財産管理人の選任について

相続人不存在の基礎知識と手続を徹底解説2相続財産管理人の選任は、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所が審判をして行います(民法952条1項)。

相続財産管理人の選任の請求は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書を提出する形で行います(家事事件手続法230条1号が「相続が開始した地を管轄する家庭裁判所」と規定しているところ、民法883条が「相続は、被相続人の住所において開始する。」と規定しているため)。

申立てに必要な費用には、800円の収入印紙、1000~3000円程度の切手(券種と枚数は各地の家庭裁判所によって異なります)、4000円程度の官報公告費用、50~100万円程度の予納金(金額は各地の家庭裁判所によって異なります)といったものがあります。

このうち、予納金はもっぱら相続財産管理人の報酬を確保するためのものです。

相続財産の形成に成功すれば、相続財産管理人の報酬は相続財産から支払われるため、余剰分は申立人に返金されます。

また、相続財産管理人の選任申立てを弁護士に依頼するときは、弁護士費用も必要です(弁護士費用は申立人の自己負担となります。相続財産から返金されることはありません)。

相続財産管理人の職務について

相続財産管理人は、相続人・相続財産・相続債権者・受遺者を調査し、

(1)相続人が判明すれば、遅滞なく管理の計算をして、現存する相続財産を相続人に引き渡すこと

(2)相続人が判明しなければ、必要があれば相続財産をお金に換えて相続債権者・受遺者に対する弁済や特別縁故者への財産分与(特別縁故者に対する相続財産分与審判が確定したとき)を行い、残余財産のうち、第三者との共有財産であるものは他の共有者に帰属させ、第三者との共有財産でないものは国庫に帰属させることを職務としています。

選任申立てができる利害関係人とは?

相続人不存在の基礎知識と手続を徹底解説3相続財産管理人の選任申立てができるのは、利害関係人と検察官だけです(民法952条1項)。

検察官が含まれているのは、余った相続財産は最終的に国庫に帰属することになるため、国も相続財産について利害関係があると言えるからです。

利害関係人の中でも、「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」(民法958条の3第1項。「特別縁故者」と呼ばれています)による申立てが最も多いと言われています。

なぜなら、特別縁故者として財産分与を求めるためには、その前提として相続財産管理人による相続人捜索公告(民法958条)の期間が満了している必要があるからです(民法958条の3第2項)。

しかし、特別縁故者であると裁判所に認定されるためには、内縁の配偶者や事実上の養子・養親といえるほどの密接な関係(「特別の縁故」)がなければなりません(通常の交際の範囲を超えない「特別ではない通常の縁故」では足りません)。

また、相続財産管理人を選任してもらうには50~100万円程度の予納金を事前に用意しなければなりません(相続財産の形成に成功すれば戻ってきますが、相続財産の形成に失敗すれば、相続財産管理人の報酬に費消されることから戻ってきません)。

そこで、法定相続人がいない人が縁故者に遺産をのこしたいときは、遺言書を作成し、その縁故者を遺言執行者に指定して遺産の全部を包括遺贈しておくべきです。

なお、遺産の全部の包括遺贈ではなく、特定遺贈や割合的一部の包括遺贈では、遺言で遺言執行者を指定していたとしても、相続財産管理人が相続債権者への弁済を行うまでの間、遺言執行者の権限が休止することになります。

また、相続財産管理人の選任申立てをすることができる利害関係人には相続債権者も含まれます。

しかし、相続債権者が弁護士費用と予納金を払って相続財産管理人の選任申立てをしたとしても、申立てをした相続債権者が優先弁済を受けられるわけではなく、他の一般債権者の債権と同じ立場で債権額に応じた按分弁済を受けられるだけです。

これでは払ったコストに見合う成果が得られたとはいえません。

そこで、相続債権者としては、相続財産法人を被告として民事訴訟を提起した後、受訴裁判所に対し、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して特別代理人の選任を申し立てることができるのであれば(民事訴訟法37条・同35条1項)、そちらを選択したほうがよいでしょう。

なお、勝訴判決を得た後は、相続財産法人に対して強制執行の申立てをした後、民事執行法41条2項に基づいて特別代理人の選任を求めることになります。

まとめ

このように、相続人不存在のときに相続財産管理人を選任すると多額のお金と時間がかかってしまいますので、遺産をのこしたい縁故者がいるときは遺言書を作成しておくことをお勧めします。

相続や遺言についてお困りのときは、当事務所までお気軽にご相談ください。

最終更新日 2024年6月30日

この記事の監修者
弁護士・監修者
弁護士法人ひいらぎ法律事務所
代表 社員 弁護士 増田 浩之
東京大学経済学部卒。姫路で家事事件に注力10年以上。神戸家庭裁判所姫路支部家事調停委員。FP1級。

最終更新日 2024年6月30日

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