相続分の譲渡、放棄とは?相続放棄との違いは?実現する方法は?

相続分の譲渡、放棄とは?相続放棄との違いは?実現する方法は?

「相続財産はほしくないけど、相続放棄ではなく相続分の譲渡や放棄をしてはダメなのだろうか」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ここでは、相続分の譲渡や放棄とはどのようなもので、相続放棄とはどう違うのかについて解説します。

相続分とは

相続分の譲渡、放棄とは?相続放棄との違いは?実現する方法は?2相続分とは、相続債務を含む相続財産全体に対してそれぞれの相続人が持つ割合のことです。

この相続分は、被相続人の遺言による指定があれば、その指定によって決定されます(指定相続分。民法902条)。

これに対し、被相続人の遺言による指定がない場合には、民法の定めるところによって決定されます(法定相続分。民法900条、901条)。

なお、特別受益者の相続分については、特別な計算方法が定められています(民法903条)。

ここで法定相続分について簡単に説明します。

配偶者と子が共同相続人の場合には、配偶者と子は、それぞれ2分の1ずつの相続分となります(民法900条1号)。

数人の子がいるときは、実子や養子の別、既婚や未婚の別を問わず、全ての子で2分の1の相続分を頭割りして計算することになります(これを「諸子均分相続の原則」といいます。民法900条4号)。

具体的には、被相続人に配偶者と3人の子がいるときは、配偶者の相続分は2分の1、3人の子の相続分は6分の1(2分の1×3分の1)となります。

配偶者と直系尊属(被相続人の親や祖父母など)が共同相続人の場合には、配偶者の相続分は3分の2、直系尊属の相続分は3分の1となります(民法900条2項)。

数人の直系尊属がいるときは、実父母や養父母の別を問わず、全ての直系尊属で3分の1の相続分を頭割りして計算することになります(民法900条4号)。

配偶者と兄弟姉妹が共同相続人の場合には、配偶者の相続分は4分の3、兄弟姉妹の相続分は4分の1となります(民法900条3号)。

数人の兄弟姉妹がいるときは、各自の相続分は均等ですが、被相続人と父母の一方だけを同じくする兄弟姉妹は、被相続人と父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の半分となります(民法900条4号ただし書)。

相続分の譲渡や放棄とは

それぞれの相続人は、遺産分割の前後を問わず、自己の相続分を第三者や他の相続人に譲渡することができます(民法905条)。

前述したとおり、相続分とは相続財産全体に対して各相続人が持つ割合のことですので、相続分の譲渡を受けた第三者は、個別の財産や権利の譲渡を受けた立場に立つのではなく、相続人たる地位の譲渡を受けたのと同じような立場に立つことになります(ここで「同じような立場」と記載したのは、相続債権者を保護するため、相続分を譲り渡した相続人は、相続分を譲り受けた第三者と重畳的に相続債務を負担することになると解釈されているからです)。

相続分の譲渡は、各相続人が単独ですることができます。

しかし、譲受人が他の相続人のときは、譲り受けた相続人の相続分が単純に増えるだけで不都合は発生しませんが、譲受人が第三者のときは、第三者の介入によって円満な遺産管理や遺産分割ができなくなる不都合が発生することから、他の相続人による取戻権(相続分の譲渡を受けた第三者に対して価額と費用を償還することで、その相続分を譲り受けることができる権利。民法905条)が認められています。

被相続人の相続人として3人の子(子A、子B、子C)がいるケースで考えてみます。

子A、子B、子Cの相続分は3分の1ずつです。

ここで子Aが自己の相続分を子Bに譲渡すると、子Aの相続分はゼロ、子Bの相続分は3分の2、子Cの相続分は3分の1となります。

これに対し、子Aが自己の相続分を放棄すると、子Aの相続分はゼロ、子Bの相続分は2分の1、子Cの相続分は2分の1となります。

相続放棄とは

相続分の譲渡、放棄とは?相続放棄との違いは?実現する方法は?3相続放棄とは、初めから相続人とならなかったものとみなす制度です(民法939条)。

初めから相続人とならなかったものとみなすという重大な法律効果が発生することから、相続放棄は、家庭裁判所に申述する方式によって行わなければならないものとされています(民法938条)。

3人の子が相続人である上記のケースで説明すると、子Aが相続放棄をした場合は、子Aの相続分はゼロ、子Bの相続分は2分の1、子Cの相続分は2分の1となります。

このように、子Aの相続分がゼロになるという点では、相続分の譲渡、相続分の放棄、相続放棄は同じです。

しかし、自己の相続分を渡す相手について、相続分の譲渡は選ぶことができますが、相続分の放棄や相続放棄は選ぶことができないという違いがあります。

こうしてみると、相続分の譲渡と相続放棄は同じもののようにも思えます。

相続放棄をするには、必要書類を集めて申述書を作成し、それらを家庭裁判所に提出しなければならないことから、「相続放棄の手続をするのは面倒だから相続分を放棄しよう」とか、あるいは「自分は相続財産はいらないけど、仲が悪い兄の取り分が増えるのは気に入らないから、仲が良い姉に相続分を譲ろう」などと考える人もいるかもしれません。

しかし、相続放棄をすれば初めから相続人でなかったものとみなされることから相続債務の負担を免れることができますが、相続分の譲渡や放棄を選択すると相続債務の負担を免れることができなくなってしまうという重大な違いがありますので、注意が必要です。

まとめ

このように、相続放棄ではなく、相続分の譲渡や放棄をする際には相続債務の負担を免れることができないという重大な違いがあります。

相続についてお困りのときは、当事務所までお気軽にご相談ください。

最終更新日 2024年6月30日

この記事の監修者
弁護士・監修者
弁護士法人ひいらぎ法律事務所
代表 社員 弁護士 増田 浩之
東京大学経済学部卒。姫路で家事事件に注力10年以上。神戸家庭裁判所姫路支部家事調停委員。FP1級。

最終更新日 2024年6月30日

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